「法人成り」という言葉をお聞きになったことがありますでしょうか?
個人事業主が、会社を設立して事業の形態を個人から法人に変更することです。
法人成りにはメリットもありますが、デメリットもあります。
法人成りのタイミングは、目先の節税だけにとらわれず、よーく考える必要があります。
法人成りの検討は慎重すべきです!
法人成りを検討される中で多い理由が、節税対策です。
個人事業で事業を開始し、徐々に売上が伸びて事業が拡大してくると、利益(所得)が増えて税金の負担も増加していきます。
個人の所得税については、超過累進税率を採用しているため、利益が大きくなれば、税負担も大きくなります。
そこで、法人成りをして節税をしようということです。
私の考えでは、利益が1,000万円を超えてくると、法人成りを検討する一つのタイミングかなと思っています。
どうして法人成りをすると節税になるのでしょうか?
最大のメリットは自分(事業主)に給料を支払えることです。
個人事業主として1,000万円の利益があった場合、法人成りして会社から給料として事業主に1,000万円支払えば、会社の利益は0円になるので税金はかかりません。
給料を受け取った個人には、給与所得控除という「みなし経費」が認められているので、給料が1,000万円の場合、実質的には805万円に対して税金がかかることになります。
個人事業主の場合は、1,000万円に対して税金がかかっていたのが、法人成りすると805万円に対して税金がかかるということで、法人成りするだけで節税になるということです。
しかし、この節税の旨味を求めて法人成りする方が多いのですが、節税だけのメリットで法人成りするのは非常に危険です。
それはなぜか?
法人成りすると社会保険料の負担が増えるからです。
社会保険料とは健康保険と厚生年金保険のことです。
法人(会社)は社会保険の強制適用となるので逃れることはできません。
社会保険料の負担を考慮すると、あんまり節税のメリットがないなということに気づきます。
社会保険料を加味した法人成りのシミュレーション
個人事業主として利益が青色申告特別控除前で1,200万円の利益が出ていた場合でシミュレーションしてみましょう。
法人成りして、給料を月100万円支給した場合です。(概算での計算となります)
個人事業主 | 法人成り後 | |
税金(個人) | 約316万円 | 約210万円 |
税金(法人) | 0円 | 約7万円 |
社会保険(個人) | 約100万円 | 約128万円 |
社会保険(法人) | 0円 | 約128万円 |
合計 | 約416万円 | 約473万円 |
上の表が、個人事業主と法人成り後の税金、社会保険料の負担を計算した結果です。
税金だけ見ると、法人成りすることによって税負担は下がっています。
節税効果があったということです。
しかし、社会保険料を含めた合計の負担額はどうでしょうか?
法人としての社会保険料の負担が増えるため、トータルでは法人成りした方が支出が多くなっています。
もちろん、給料の取り方(親族で分散するなど)を考えることによって、法人成り後の全体の負担額を減らすことは可能だと思います。
しかし、社会保険料の負担を含めると節税だけのメリットはそこまでないということは、気づいていただけるのではないでしょうか。
もちろん、社会保険に加入すること(国民年金より手厚い厚生年金を掛けること)をメリットと感じるのであれば、法人成りをおすすめしますが、多数の人は、節税だけを目的としているため「法人成りしたのに負担が増えた」となってしまうのです。
法人成りのタイミングは事業の将来を考えて!
法人成りのタイミングは節税だけでなく、事業の将来を考えて検討するべきです。
個人事業として成長してきた事業を、もっと伸ばすために会社にしたいという強い思いが一番大事です。
個人事業から会社にすることで、取引先や金融機関からの信用度が上がります。
今まで取引してくれなかった企業と取引できたり、金融機関からの信用が上がれば、事業をもっと大きくするための融資だって受けることができます。
もちろん、法人成りすることで、事業主に給料を支払えるというメリットだけでなく、生命保険を経費で落とせたり、退職金を経費にできたりと節税のメリットはたくさんあります。
しかし、節税のメリットだけで法人成りを行うのは、少し違うかなというのが私の考えです。
会社を設立するのにも、お金は必要になりますし、もっとやっかいなことに会社を潰すのにもお金が必要になります。
個人事業なら、税務署への届出1枚で簡単に廃業できるのにです。
そう考えると、やはり節税だけにとらわれるのではなく、会社を大きくしたいといった熱い気持ちが必要なのかなと思います。
事業の将来を考えて法人成りの検討をしていきましょう。
まとめ
個人事業から法人成りしても、税金の負担は減っても社会保険料の負担が増えて、あまり効果が得られないことがあります。
法人成りを検討する場合、目先の節税だけにとらわれず、事業の将来ビジョンと一緒に検討するようにしましょう。
税制も頻繁に改正されますので、税理士等の専門家とシミュレーションを重ねて、法人成りを行いましょう。